大阪高等裁判所 昭和37年(ネ)506号 判決 1965年1月28日
控訴人(原告)
伊坂俊二
代理人
寺坂文二
外一名
右補助参加人
伊坂スミ
外八名
代理人
中間保定
被控訴人(被告)
猪名川礦油株式会社
代理人
辻中一二三
主文
原判決を取り消す。
本件を神戸地裁判所に差し戻す。
事実
控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴会社が昭和三四年三月三一日開催の株主総会において取締役木村勝太郎、同佐久間正夫、同堅山秀造、監査役辻中一二三を選任する旨の決議の存在しないことを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、なお、当審において請求の趣旨を「被控訴会社が昭和三六年四月二〇日開催の株主総会において取締役佐久間正夫、同古宮健吾、同秋山康次、監査役堅山秀造を選任する旨の決議の無効であることを確認する」と追加変更し、被控訴会社代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする」との判決を求めた。<以下省略>
理由
三、訴の利益について
被控訴会社は、旧株主総会の決議によつて選任された取締役監査役はすでに任期満了により退任し、新株主総会において後任取締役、監査役が選任されたのであるから、旧株主総会の決議不存在確認を求める訴の利益はないと主張するので按ずるに、株主総会決議不存在確認の訴は、商業登記簿の記載等により拘束力あるものとして表見的に存在する決議がその効力を有しないことの対世的確定を求めるものであつて、その性格は決議無効確認の訴に準すべきものというべきところ、本件では旧株主総会において選任されたと称する取締役監査役がすでに任期満了により退任し、その旨の登記を経由していることは成立に争のない乙第二号証および弁論の全趣旨に照して明らかなところであるから、当該取締役、監査役を会社の業務執行より排除する必要性もないものというべく、従つて、右総会決議が効力をを有しないことの対世的確定を求める利益はもはや存在しないものといわなければならない。もし右取締役等が会社の代表者、その他会社機関としてなした諸種の行為の効力を争う必要があれば、その前提となる総会決議の不存在、すなわち決議の効力のないことは、対世効ある判決をまつまでもなく、個々の訴訟においてこれを攻撃防禦方法として主張することにより、個別的に解決できるし、またこれを以て足るのであるから、この関係においても訴の利益を欠くものというべきである。しかしながら、本件では、旧株主総会の決議が不存在であるから、同総会において選任されたと称する取締役の招集した、後任取締役、監査役選任の新株主総会の決議は、招集権限のないものが招集した総会決議であることを理由に、その決議無効確認の訴が、訴の変更により追加的に併合されており、旧株主総会の決議が不存在であるかどうかはこの新請求について当然判断すべき先決関係に立つことは前記のとおりであるから、もし新株主総会の決議無効確認の訴訟係属中に中間確認の訴として旧株主総会の決議不存在確認の訴を提起する場合であれば、後者の確認の利益は当然肯定される筋合いであり、この理を以てすれば、右の如く訴の変更により両訴訟が併合された場合も同様であつて、異別に解すべき根拠はない。この点よりすれば、別訴によらない本件の旧株主総会決議不存在確認の訴は前記のような事情の存在にもかかわらず、なお訴の利益を肯定すべきものというべきである。≪前略≫
五、結論
以上の次第であつて、控訴人の本訴請求を訴の利益を欠くという理由で却下した原判決は失当であるから、これを取消し、本件(当審における新訴をも含めて共に)を原裁判所に差戻すべきである。
よつて、民訴三八六条、三八八条を適用して主文のとおり判決する。(金田宇佐夫 日高敏夫 古崎慶長)